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2023年04月08日

第68回入学式 式辞

第68回入学式における校長の式辞を公開いたします。

式  辞

 本日ここに入学式を挙行するにあたり、PTA・後援会・同窓会の役員の皆様、また、学校法人北海道科学大学の苫米地理事長をはじめとする皆様のご臨席を賜り、また、多くの保護者の皆様にもご出席をいただき、教職員一同心からお礼を申し上げます。

 本日、入学を許可される297名の新入生・保護者の皆さん、入学おめでとうございます。井上学年主任と8名の担任はもちろんのこと、すべての教職員や先輩達もこの日を心待ちにしていました。君達は、学校法人北海道科学大学の百周年記念事業の一環として新築された、この高校校舎に入学した、記念すべき第一期生です。また、本校が普通科単置校となった2020年以来、大変ありがたいことに多くの入学生を迎え続けたために定員管理が厳しく求められ、今回の入学者選抜はとてもハードルが高いものとなりましたが、その難関を見事に突破して、今この入学式に参加していることを、大いに自信としてほしいと思います。同時に、入学生と保護者の皆様の本校への期待に応えるべく、我々教職員は強い決意を持って、これからの教育活動に向き合う覚悟です。

 この新校舎、感想はいかがでしょうか。北海道はもちろん、全国的に見ても、大胆で個性的な校舎であると自負しています。「一人ひとりの生徒を大切にする多様性」、「その中で育まれる主体性と創造性」が基本コンセプトです。校舎の、教室の内と外、全ては多様な関係で結ばれ、君達の自由な発想で、この校舎の可能性が最大限に活かされることを期待しています。その時、君達に認識してもらわねばならないことがあります。それは、「自由とは何ぞや」と言うことです。幕末から急速に日本に入ってきた英語。中には、従来の日本語には適した訳語が見つからない単語が沢山ありました。その中に「Freedom」・「Liberty」という言葉があり、最も広く普及した訳語が「自由」です。それは「自分自身を理由とする」。つまり、「自分自身の考えを拠り所とし、自分自身の責任で行動する」というものであり、「他者の存在や不快感を無視すること」を許容する考えはありません。2・3年生にも話しましたが、この新校舎では、なるべく細かいルールや禁止項目を決めないようにしたいと願っています。しかし、その前提に、先ほど話した、「自由とは何ぞや」という事を生徒全員が理解していることが必要です。後に、この学校に細かいルールや禁止が増えているか、いないか。この斬新な校舎が本当の意味で生き生きとした学びの空間になっているかが証明されるでしょう。

 ちなみに、この校舎の建設にあたって、設計から施工に至るまで、本校や北科大の多くの卒業生が、建設会社の責任ある立場で関わってくれていたことも伝えたいと思います。また、玄関を入ってすぐにLinks HALLという多目的スペースがありますが、その入り口に巨大な古木のオブジェがあるのに気付いたでしょうか。本校の卒業生である藤原千也さんの作品で、タイトルは「Given」です。天から、自然から与えられた無数の命が共に生きるこの世界、そこに与えられる光。そんな生命観を表現した作品と受け止めています。藤原さんは本校卒業後に大阪芸術大学に進学し、教員を勤めながら作品を作り続け、一昨年に岡本太郎現代芸術賞を、昨年は道銀芸術文化奨励賞を受賞しました。校舎新築にあたり、生徒に様々なメッセージを送ろうとする一環として、後輩達のために全面協力していただきました。

 校舎以上に大切なことは、新校舎よりも一足早くリニューアルされた新しい学びの数々です。校舎の前田移転によって高校と大学が一つになり、時間をかけて生涯に役立つ学びを生徒に提供する「高大一体教育」を展開します。「HUS Links」という言葉は、高大が一体となって取り組む様々なプログラムの総称であり、高校生でありながら、北科大の教員はもちろん、全国のプロフェッショナルから、時には高校の校舎を飛び出して様々な学びを得ることができます。特に、高校3年生の後期に大学の講義に参加して、高大で単位を相互認定するコンカレントプログラムは北海道初の取り組みであり、時代の最先端に立つものです。皆さんにとって進路は最重要事項です。しかし、大学に入ることだけが目的の学びは、自分の可能性を広めることには繋がりません。学校説明会でもお伝えしてきましたが、本校は皆さんに様々な選択肢を提示します。大いに悩みましょう。時には失敗しましょう。我々が期待すること。それは、「悩んだ分だけ、決めたからには自分事としてとことんやる」。「失敗してもへこたれず、ただでは起き上がらない」ということが、本校生の常識となることです。

 さて、式辞から少々脱線して、高校生活最初の授業を受けるつもりで聞いて下さい。(投影された画像を見せながら)写っている人物が誰かわかりますか。中村哲さんという、日本国内以上に、ある国の英雄となった人です。それは、アフガニスタン。アフガニスタンがどんな国であるか。その自然環境をこの地図から想像できるでしょうか。国土の多くを占める茶色は山岳地帯であり、その周辺は緑が少ない乾いた大地であることが想像できるでしょうか。アフガニスタンの環境は厳しく、人々は貧しい。なのに、大人達は戦争に明け暮れています。そんなアフガニスタンに飛び込んだ中村さんは医師であり、苦しむ人々に献身的に治療しました。しかし彼は思った。どんなに頑張って治療し続けても、社会の根本が整わない限り何も解決しない。何より大切なのは、栄養と衛生の基盤となる水。彼は、医師としての治療ではなく、井戸の掘削と用水路の建設に自ら乗り出します。更に重要なことは、その事業を多くの現地の人々を動員することで進めたことです。彼の努力によって、乾いた大地は緑豊かな大地に変貌し、彼と共に活動したアフガニスタンの人々によってこれからも守られ続けるのでしょう。つまり、中村さんは先進国から来た豊かな人間として何かを与えるのではなく、アフガニスタン人が自立する支援に汗を流したのです。

 中村さんを語る時に、「医者でありながら井戸を掘り、用水路を作った偉大な人」という言い方をよく聞きますが、中村さんが医者でなかったならば、最初から土木技師であったならば、彼の偉業は普通の事と化してしまうのでしょうか。けしてそんな事はありません。「医者が井戸掘り」という意外性は、確かにインパクトはありますが、この世には社会から求められる、人々が必要としている仕事は数多くあり、各々が尊い仕事です。時には、最先端の治療行為よりも、きれいで十分な量の水が価値を持つこともあるのです。

 君達は、高校に入学し、いよいよ自分の将来、職業生活を意識しなければならなくなります。その時、是非とも心に留めてほしいのは、世の中には、まだまだ知らないことが山ほどある。様々なことに挑戦し、学び、少しでも多く世の中を知った上で、自分の将来を考えた方が、自分の可能性を高めることに繋がるということです。

 もう一つ、伝えたいことがあります。中学校までに学んできたことの多くは、学問の基礎の基礎。正解がはっきりしていることを身に付けるものです。一方で、大学での学びは研究であり、究極的には、この世の誰も知らないことを知ろうとするものです。我々は、その中間地点として高校での学びを位置づけたいと考えます。まだまだ身に付けるべき基礎的な知識やスキルが存在します。その一方で、単に正解を暗記するだけではなく、自ら問いを立てたり、正解のない問いに取り組んで主体的かつ創造的な学びを身に付け、大学での学びに繋げたいと願います。定期考査や入試が終わったら即座に忘れて用なしになる学びから卒業しなければいけません。「学んだのに解らない」という状況に遭遇した時、「解らない自分がダメ」なのではなく、「解らないことに気づけた自分は一歩前進」と思うべきなのです。大切なことは、「解らないままで終わらない」、「努力したのに解らないのはいやだから、最初から諦めた方が楽だとけして考えない」ことです。

 終わりになりますが、本日の入学式に出席いただいた保護者の皆様に心からお祝いとお礼を申し上げます。教職員一同、新入生全員が「科学大高校に来て良かった」と満足感を胸に卒業する日まで、全力で支え続けます。そのためにも、保護者の方々との日常の連携を密にし、いつでも本音で相談しあえる関係を作り上げたいと願っております。私も一人の親として子供の高校生活を見守り、親子の距離感の保ち方の難しさを痛感しました。「高校生になったのだから、自分で判断して行動できるようになってほしい」という期待感。その一方で、「言うことは一人前になってきたけど、やることは相変わらず子供のままだな」という現実感。その狭間で、どこでバランスをとるべきか悩んだことを思い出します。そんな場面に出会った時、ある時は担任や部活動の顧問と、ある時は親同士で、本音で語り合えることが一服の清涼剤となります。そんな関係を作り合える学校となることを願っておりますし、努力したいと考えております。

 改めて新入生の皆さんに伝えたい。高校生までは、あらゆる面で人間としての基礎が形成される時期です。言ってみれば、毎日が練習試合。だから、目先の勝ち負けではなく、試合から何を学べるのか。自分がやるべき試合は何であるのかを本気で考えましょう。皆さんが北海道で育った若者らしく、スケールの大きな人間に成長することを祈って、入学に当たっての式辞と致します。

2023年4月8日

北海道科学大学高等学校

校長  橋 本 達 也