第66回卒業証書授与式 式辞
第66回卒業証書授与式における校長の式辞を公開いたします。
式 辞
本日ここに、第66回北海道科学大学高等学校卒業証書授与式を挙行するに当たり、西村会長をはじめとするPTA及び後援会役員の皆様、高橋会長をはじめとする同窓会役員の皆様、そして学校法人から苫米地理事長をはじめとする役員と各設置校の学長・校長のご臨席を賜りました。また、保護者の皆様には、会場の関係で一家族2名までと制限させていただきましたが、ご協力いただき心から感謝申し上げます。
本日、卒業証書を授与される普通科346名の生徒と保護者の皆さんに心からお祝いを申し上げます。
君達が入学した2021年は、まだ、コロナの影響が色濃く残る時期で、入学式後のLHRは生徒と保護者が別会場で実施。学校祭も体育大会もすべて学年ごとの実施。本校の特色の1つである海外短期留学は校内で外国人留学生から学ぶエンパワーメントプログラムとするなど、様々な制限がある中で、とにかく、できることをできる範囲でやろうともがいていた時期でした。しかし、無観客という異例の状況ではありながらも部活動の全国大会が復活し、2年生の時には沖縄は諦めざるを得なくても4泊5日の修学旅行に行けたり、海外研修も復活したりと、君達の世代は比較的ラッキーであったと思います。
1年生の終わりに発刊された生徒会季刊誌「三重奏」で、「学校にあったらいいもの」というアンケート調査が行われたことを覚えているでしょうか。もちろん、昭和の香り漂う中の島校舎で生活していた時期の話です。全校生徒の圧倒的多数を占めたベスト5は、第5位から順に、個人ロッカー、コンビニ、学食、エレベーター、エアコンでした。新校舎に移り、なんと、全てが揃いました。改めて同じ質問をしたら、今はどんな回答が来るのでしょうか。基本的に人間は無いものネダリです。だからこそ、自分にとっての優先順位を明確に持つことが大切です。また、快適な環境は自らが作り上げるものであって、与えられることが当たり前ではないということは忘れないでほしいと思います。
入学式の式辞において、大道芸をする数学者であるピーター=フランクルの話しをしました。彼は、ホロコーストと呼ばれるナチスによる民族虐殺の悲劇を生き抜いたユダヤ人の末裔です。幼い頃から、「物ははかない。いつでも誰かに奪われてしまう。だからこそ学びなさい。知恵は、お前の命が奪われない限り、お前を助ける。」と親から教わったそうです。そのユダヤ人によって建国されたイスラエルは、「自らの命を守る」という大義に基づいて、自分たちが経験した史上最悪の悲劇をパレスティナの人々に繰り返しているようにも見えます。
ウクライナでの戦争も、2年を過ぎて、いまだに収束の見通しはなく、多くの命を消耗しながら継続されています。戦争が始まった頃の全校集会で、「一方を正義のヒーロー、一方を悪の権化」であるかのごとく単純に図式化するマスコミの説明を鵜呑みにしてはならない。世界はもっと複雑であり、わかりやすい説明ほど、気を付ける必要があると話したことを覚えてくれている人はいるでしょうか。
我々は、平和で、死という事を非日常に感じる安心な社会で暮らせています。それは本当に尊いものです。だからこそ、本気で学ぶことができる。いや、学ぶ義務がある。「快適」という言葉の対極の環境で生きる、君達と同じ18歳の人生にも目を向け、自分に何ができるかを考える努力が必要であり、救いを求める人々は世界に溢れています。
3年生は家庭学習期間だったために参加できませんでしたが、先日、生徒会執行部が能登半島地震義援金の募金活動を校内で実施し、多くの生徒や大学を含む教職員の協力を得ました。私は心から彼らの気持ちが嬉しくなりました。恵まれた環境にいる人間として、できることを考え行動する。たとえささやかであっても、他者の役に立てることがあれば形にする。こうしたことの積み重ねが、たとえ時間がかかっても、社会を変えてゆく力となるのだと信じます。
君達は、この新校舎で暮らし、巣立ってゆく一期生です。新校舎の建設に当たって、生徒に少しでも快適で刺激的な環境を用意したいと、多くの関係者が努力してきました。しかし、本当に大切なことは、この環境が君達の高校生活を活性化し、今後の人生に果敢に挑戦する気概を育てられたかが肝心です。そうした意味では、通常の授業や講習・部活動・学校行事はもちろんのこと、3年間にわたって取り組みが続けられた総合的な探求の時間での多様な学びや、大学キャンパスと一体化したことによって質・量ともに充実した高大接続プログラムといった教育内容が君達にとって役立つものであったならば、最も喜びとするところです。
入学式の式辞の中でもう一つ伝えたのが、水泳の池江選手の「目標は自己ベスト」という言葉でした。どうでしょう。高校3年間で自己ベストを更新できたでしょうか。この自己ベストを目指す舞台は、高校生活で終わるものではなく、いよいよこれからです。この中には来月から社会人となる人もいます。同級生よりも一歩早く、社会的責任を負った大人になることを目標にしてください。国公立大学入試の結果を持っている人もいます。是非とも桜咲くことを祈っていますが、たとえ今回は夢が叶わなくとも、自己ベストを出すという目標は、見失わないでほしいと願います。
改めて、保護者の皆様にお祝いと感謝を申し上げます。3年間にわたり、本当にお世話になりました。皆さんにとっても、様々な喜びとご苦労が積み重なった3年間であったろうと推察いたします。我が子を15歳にして親元から離す決意をされた方、先が見えない不安を抱えながら進路に立ち向かうお子さんを見守り続けた方、休日返上で練習する部活動にお子さんを送り出し続けた方。保護者の皆さんの支えがあったからこそ、本校の活動が何とか継続できたと感謝しておりますし、生徒達も言葉に出さずとも、親への感謝を胸に秘めていると思います。もちろん、学校として、皆様のご期待に応えきれなかったこともあったと思います。青木学年主任をはじめ10名の担任団はもとより、教職員一同、3年間にわたって保護者の皆様とお付き合いさせていただいたことに、心から感謝しております。これからも、末永く本校をご支援頂けるよう、お願い申し上げます。
卒業生の中で、北科大に進学する生徒が短期大学部の募集停止後としては過去最多となる見込みです。後輩である新3年生からコンカレントプログラムが始まり、大学1年の後期には机を並べて学ぶ機会もあるかもしれません。これまで以上に、高大一体という言葉が単なるスローガンとしてではなく、更に実体を伴った、北海道初の取り組みとしてスタートします。皆さんが後輩たちとレベル高いタッグを組み、故郷である北海道の発展に寄与してくれることを夢見ます。皆さんの大いなる飛躍を、また、今後は第66期同窓生として母校と後輩を何時までも応援してくれることを期待して、式辞といたします。
2024年3月1日
北海道科学大学高等学校
校 長 橋 本 達 也